妻の寝言に恐怖した話
たそちゃん (妻) は寝言が多い。そんな妻が発した寝言に恐怖を覚えるなんて夢にも思わなかった。そんな話。
その儀式は突然に
2021年、夏のある日の出来事だった。「今年も暑いねぇー」と語りながら、いつの間にか昼寝をしていた。
1時間ほど寝ていた頃だろうか。なにやら、隣で寝ているハズの妻が騒がしい。ふと目をやると、手拍子をしながら歌っていた。それも、仰向けで寝ながら。
「~~~♪~~~♪」(ペチペチ)
しかし、絶妙に呂律が回っておらず、口から漏れる歌詞らしき言葉の意味を僕は理解することができなかった。そもそも、これは日本語なのだろうか…?
突然の出来事に、僕の脳みそはフリーズ。目の前で起きている出来事は、自分の知っている「寝言」とは異なる様相を呈していた。あまりにも異様な光景…、手拍子までしてるし (ペチペチ)。もはや、それは一種の儀式のようであった。
時代が違えば妖怪の類の仕業だっただろう。悪霊・モノノ怪に憑かれるなんて、よくある怪談じゃないか。正直、一瞬ぎょっとした。これが非日常体験というやつだろうか。いやはや、こんなところで経験できるとは。若干の恐怖を感じつつ、ちょちょいと肩を叩いて妻を起こした。
「ねぇ、これ何の曲?これ何語?」
意外な言葉が返ってきた。口ずさむメロディは舌足らずなのに、ハッキリとした質問口調だった。「これ何の曲?」。そう、妻から僕へ投げかけられた質問だったのだ。おや?バグかな?
そのとき僕は考えるのをやめた。
寝歌は実在する
何度目かの呼びかけで、妻が目を覚ました。歌っていた自覚は無いらしい。そして、答えが判明した。どうやら、前日に観劇したミュージカル『メリー・ポピンズ』の夢を鮮明に見ていたようなのだ。寝言ならぬ寝歌の正体は、劇中歌である「Supercalifragilisticexpialidocious」であった。カタカナにすると「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」…、なるほどわからん。
何とも奇怪な文字列であるが、「意味不明な単語だが不思議なパワーのある呪文的なサムシング」を歌ったものらしい。先述の質問は、まさに的を得ていたのだ。やはり寝言には、本能や深層心理が現れるのだろう。身をもって恐ろしい体験をしたのだが、答え合わせをしてスッキリした。寝言ならぬ寝歌は、確かにこの世に存在したのだ。